法務局の自筆証書遺言書保管制度の注意点

自筆証書遺言書の多くは遺言者や相続人となる人が保管するのですが、実は法務局で保管することもできます。この記事では、法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用する際に、よくある失敗や注意点などを紹介します。

申請のハードルは意外と高い

申請に必要なものや守らなければならないルールはいくつかあるのですが、その中でも特に重要なことが2点あります。この2点はクリアできなければ申請を諦めなければなりません。

1つ目は、遺言者本人が法務局に出頭しなければならないことです。本人に代わって家族が代理人として法務局に行って申請をするということはできません。弁護士などの有資格者であったとしても、本人が必ず法務局に行かなければ申請できないのです。そのため、病気などで寝たきりになってしまっている場合などには利用できません。

2つ目は、顔写真付きの身分証明書が必要になることです。申請者の大部分は高齢者なのですが、高齢者の場合、マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなどを持っていないことが意外と珍しくありません。マイナンバーカードは難しそうで申請していない、申請したけど情報漏洩が怖くて返納した、運転も怖くて免許証は自主返納、海外に行く予定はもうないからパスポートもない、ということが案外多いです。保険証など顔写真がないものは認められていないので、気をつけてください。

民法と保管制度の2つのルールを守ろう

保管制度を利用しない自筆証書遺言書の場合は、民法968条を守れば有効です。もう少し具体的に言うと、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、押印することです。ちなみに、財産目録については、パソコンを利用したり、通帳のコピーなどを添付することもできますが、目録のすべてのページに署名押印が必要です。また、修正する場合には、修正箇所を指示して、修正した旨を書いて署名し、修正した箇所に押印することが必要です。

そして、保管制度を利用する場合は、上記の民法を守った上で、さらに保管制度の様式を守る必要があります。

  1. A4サイズであること
  2. 余白を確保すること
  3. 片面のみに記載すること
  4. 各ページにページ番号を記載すること
  5. 複数ページある場合でもホチキスなどでとじないこと

順番に解説します。

1つ目のA4サイズであることについてですが、実はA4より小さいサイズでも構いません。というのは、A4用紙に貼り付ければいいからです。少し見栄えは悪くなりますが、それでも法務局は受け付けてくれます。しかし、逆に、A4を超えるサイズの場合はどうしようもないので、受け付けてもらえず、書き直すことになります。

2つ目の余白を確保することについてです。5つのルールのうち、最も多い失敗が、余白を確保していないことです。余白にも細かい決まりがあり、上部5mm以上、下部10mm以上、左20mm以上、右5mm以上が必要とされています。なぜ余白が必要かというと、スキャンしてデータでも保管するからです。そして、スキャンする際に、端が切れてしまう場合があるので、それを防ぐために余白を確保しているようです。

3つ目の片面のみに記載するというのはそのままで、裏表両面に記載するのは認められていません。

4つ目のページ数についてです。書き方は「1/3」などのように書きます。仮に1枚しかない場合でも「1/1」のように書かなければなりません。ちなみに、ページ数は本文には当たらないので、自筆でなくても大丈夫です。このページ数は余白の次に多いミスで、書き忘れがよくあります。単に書いていない場合は書き足せばいいのでまだいいのですが、余白にページ数を書いてしまった場合は書き直す必要があります。余白には何も書いてはいけません。

5つ目もそのままで、ホッチキスやクリップでとめてはいけません。

却下事由でなければ受け付けてもらえる

上で紹介した民法と保管制度のルールを守りさえすれば、基本的には受け付けてもらえます。これは一見、うるさいことを言われないので良いように思えるのですが、受け付けてもらえたからといって遺言書として望ましい状態にあるということを意味するわけではないことに注意が必要でしょう。

たとえば、一般的に重要書類を書く際にはボールペンなど消えないペンを使うことが多く、常識とさえなっています。しかし、民法にも保管制度のルールにも「消えないボールペンを使用すること」とは書かれていないので、鉛筆や消えるペンを使用しても受け付けてもらえます。遺言書は長期間保管するものですから、鉛筆や消えるペンは使用しない方がよいでしょう。

また、法務局は遺言書の内容については見ていません。形式だけを見ています。なので、この内容はまずいのでは?と思ってしまうようなものであったとしても、受け付けられます。受け付けてもらえたからといって、法務局に内容が認められたというわけではありません。可能であれば、弁護士や司法書士、行政書士に内容を確認してもらうのがよいでしょう。

白黒でコピーやスキャンすることを念頭に置こう

法務局での保管制度では、自筆証書遺言書を白黒でコピーしたりスキャンしたりします。そのため、遺言者を書く際には、そのことを意識しておくとトラブルが少なくなります。

よくあるのが、模様や柄の入った用紙を使用している場合、その上に文字を書いていると、白黒でコピーした際に文字が重なって読み取れなくなるのです。おそらく、模様や柄が入っていても却下事由に該当しなければ受け付けてくれるとは思いますが、あまりやらない方がいいでしょう。また、色付きの用紙を使用した場合も文字が読み取りにくくなるので、真っ白の紙を使うのがオススメです。

そして、修正する場合も注意です。一般的に、修正する場合は、間違えた箇所に二重線を引いて、その上に押印します。しかし、文字の上に押印すると、コピーした場合に、文字が読み取りにくくなります。そのため、押印は文字と重ならないギリギリのところにするのがよいでしょう。

まとめ

よくあるミスや誤解について、簡単ではありますが紹介しました。この記事だけを読むと、法務局での保管制度はあまりよくないもののように思えるかもしれませんが、費用が3,900円とかなり安いこと、保管制度を利用しない場合の自筆証書遺言書に必要な家庭裁判所の検認が不要となること、遺言者が死亡した場合の通知制度が設けられていることなど、メリットも多くあります。有効活用してみてください。