行政書士を8ヶ月で廃業して感じたこと

行政書士試験に合格してすぐに、行政書士の登録をして開業したのですが、8ヶ月で廃業することになりました。行政書士になって、また廃業して、感じたことを書いてみたいと思います。これから行政書士を開業しようと考えている方に、少しでも参考になれば嬉しいです。

行政書士を8ヶ月で廃業した理由

私は令和4年度の行政書士試験に合格して、令和5年5月に開業、そして同じ年の12月に廃業しました。

廃業した理由は、司法書士試験の勉強のためです。その勉強に集中するために、行政書士を廃業しなければならなくなりました。ただ、多少このあたりの事情を知っている人からすれば、別に行政書士を廃業しなくても、登録だけしておいて、司法書士の勉強をすればいいのでは?と疑問を持たれるのではないかと思います。

それはまったくその通りで、実は、お金の問題ということになります。事務所の家賃だけで毎月4万円くらい消えてしまう、事務所を家賃のかからない自宅にしようかと思ったけどそれが難しい、そして生活費として最低限の収入は欲しいが行政書士で副業的に稼ぐのも難しい、ということで、廃業しました。

それで、すみません、若干タイトル詐欺的なところがあるので、ちゃんと言っておかないといけないのですが、完全に行政書士を諦めたわけではなくて、司法書士を取ったあとに行政書士はまたやるつもりでいます。ただ、開業した当時は完全に失敗していたと思います。

なぜ失敗したか

私の場合、かなりレアなケースだと思うのですが、専門分野が狭すぎたことが理由だと考えています。ちなみに、専門分野は宗教法人です。

そもそも私が行政書士になろうと思ったのは、大学でやっていた研究を実践に移したかったからです。私は龍谷大学で仏教を学び、その後、同志社大学の大学院で神学(キリスト教)を学びました。宗教間対話といって、どうすれば異なる宗教や価値観を持った人たちが共存していけるのかを研究していたわけです。行政書士は宗教法人を直接的に扱うことができ、宗教と多くの接点を持てます。宗教法人関係の仕事そのものを宗教間対話と言うつもりはありませんが、宗教との接点を持つことで、何かできるのではないか、何かにつなげることができるのではないかと考えたのでした。

龍谷から同志社って学歴コンプレックスがあったのかな?とか宗教勉強しているなんてキモい!とか、いろいろな意見があるでしょうけど、私としてはなかなかすごいことをやってきたのではないかと思っています。龍谷は仏教研究では世界的に有名ですし、同志社もユダヤ教・キリスト教・イスラームの3つの一神教を学べる大学としては世界で唯一であり、この2つの大学で(しかも京都という地で)仏教とキリスト教を学ぶことには大きな意義があります。

そして、この自負心が仇となりました。龍谷と同志社で勉強して、宗教法人専門の行政書士を開業したら、仕事は勝手に入ってくるだろうと思っていたのですけど、そんなに簡単ではありませんでした。ニッチ過ぎました。ついでに言うと、宗教つながりで終活支援とか、あと宗教を組織として見ると会社経営に応用できるので会社設立とかもやろうとしていたのですが、こちらに関しては完全に私の実力不足で、勉強が足りていなかったです。宗教の知識は多少自信があるものの、相続や会社については行政書士試験の知識だけではまったく役に立ちませんでした。

諸々準備不足だったなと思います。市場調査とか、営業とか、勉強とか。それからお金の準備ももっと必要だったと思います。開業にかかった費用は、登録費込で50万円程度で比較的安く済み、あと暫くの間の生活費として100万円くらい用意していたのですが、なんだかんだでお金は使うもので、貯金はすぐになくりました。行政書士だけでやるのはかなりきついぞ、となって7月には行政書士とはまったく関係のないバイトを始めたくらいです。

行政書士は稼げないのか

お金のことを言い出すけど、結局、この疑問が浮かんでくることになります。

行政書士は稼げないのか?

これについては行政書士で稼いでいる人を、行政書士会の中で多く見てきたので、稼げるとは思います。しかし、開業してすぐに稼げるようになるのはかなり厳しいのではないでしょうか。行政書士会の理事をしている人から聞いたことがあるのですが、開業したての頃はクレジットカードのリボ払いでなんとか生活していたそうです。最初は多くの人がこうなるのかもしれません。

私はカネもコネもないのに開業すべきではないと思います。私の場合、大学や宗教関係のところで多少の人間関係はありましたが、それでも仕事に結びつくとは限りません。また、お金についても、100万円程度ではないに等しいと感じました。

ところで、今稼げている先輩行政書士の先生方は、開業して間もない頃、どうされていたのでしょうか。私が所属していた会にはありがたいことに開業セミナーというものがあって、先輩の体験談を聞く機会があります。そこで思い切って、事業が安定するまでどうすればいいのか、聞いてみました。

「私は行政書士になってから事業が安定したと感じたことはありません」って返されたときはどうしようかと思いましたが(まあ私も行政書士とは別に自営業の経験があったので言いたいことはめっちゃわかるのですが)、具体的な方法を聞いてみると、2つの方法を教えてもらうことができました。受託業務と、車庫証明のような短期間で終わるものです。この2つをやればいいのではないかということでした。

行政書士になると受託業務を受けることができます(たとえば、市町村から無料相談窓口を開いてくださいみたいなのが来るわけです)。受託業務は有名なので、中には、開業したらしばらくは受託業務で生活をしようと考えている人もいるのではないでしょうか。この受託業務ですが、ちょっと使いにくいところがあって、他の地域の会がどうなっているのかわからないのですが、だいたいは登録制になっていると思います。で、年中登録できるわけではなくて、登録の募集がかかるのが年1回とかです。なので、入会のタイミングを間違えると、受託業務がまったくない、ということになりかねません。もちろん、受託業務は1つだけということはなく、複数あります。ですが、そんなに数があるわけではないですし、仮に登録しても、他の会員との兼ね合いで、あまり仕事が振られないこともあります。ですので、受託業務だけで生活をするのは、私は厳しいのではないかなという気がします。たぶん、仮に受託業務を全部受けられたとしても、月10万くらいしかないのではないでしょうか。

あと、車庫証明のような短期間で終わるものなのですが、単価も安いので、たくさんの依頼を受注するのが難しいです。これは車庫証明に限らないのですが、だいたいは、特定の分野に詳しい先輩行政書士、つまりライバルがすでにいます。このあたり、どうするのかが一つの課題になってくるでしょうか。

このようなことを考えていると、結局のところ、バイトとか派遣をやる方がいいよね、ということになってきます。ただ、私の経験からすると、バイトや派遣をやると、本業の行政書士業務に割ける時間が減ってしまうのと、スケジュール管理がめちゃくちゃ難しくなるので、可能であればシフト変更しやすいバイト・派遣を見つけるのがいいと思います。あと、この働き方は本当に休みがなくなるので、健康には気をつけてください。

行政書士は兼業が多い

実際の行政書士がどういう働き方をしているのか、会の人にいろいろと聞いて回ったところ、兼業している人がめちゃくちゃ多いです。そんなこと知ってる、ダブルライセンスがほとんどなんだろ?という声が聞こえてきそうですが、そうではありません。たしかにダブルライセンスの人は多いのですが、資格を持っていない人も多いです。つまり、行政書士と普通の仕事です。

上に書いたように、行政書士だけでやっていけず、消極的な理由で兼業をしている人も決して少なくないのですが、広告代理店やホームページ作成、物販などの士業ではない普通の事業をすでに営んでいて、その延長として行政書士をやっている、というような人がかなり多いのです。

私は、これはけっこう大事なことだと思います。ネットで調べると、行政書士の8割くらいは年収が300万円程度と出てきます。なんでこんな数字が出るのかというと、そもそも行政書士で稼ぐつもりがそんなにない、という人がそこそこいるからだと私は思っています。

また、このことは、怒られるかもしれないし、私の考え過ぎなのかもしれないのですが、行政書士業界として、行政書士としての働き方がまだ十分に確立できていないのではないか、とあくまでも私にはそう見えました。

行政書士だけでちゃんと稼げている人はどうしているか

これも気になって先輩に聞いたり、勉強会に参加したり(仕事がなく暇だったのでだいたいの勉強会には参加しました)で調べました。

管見の限りですが、2パターンしかないです。

1つは業務特化型です。これは言うまでもないと思います。私もニッチ過ぎましたが、うまく行っていればこれになっていたでしょう。

2つ目は地域密着型です。これは依頼があればできる範囲で受けるという感じで業務を絞っているわけではないのですが、活動する地域が限定的である点に特徴があります。地域はだいたいは学区で考えます。学区というとかなり小さいイメージもありますが、人口が200~300人もいれば、行政書士一人で抱えるには十分過ぎるそうです。

それで面白いのが働き方で、町内会や民生委員など、地域に関われることは全部やるそうです。なんなら、近所のおばあちゃんが「蛍光灯が切れたから交換して欲しい」と言ってきたら、やってあげるそうです。町内会や民生委員といった活動やおばあちゃんの頼み事などといったことは、言うまでもなく無償なので一切収入はないのですが、とにかくやって地域からの信頼を得る。すると、ふとした時に行政書士の仕事がもらえるそうです。

地域密着型の場合、月の半分くらいは行政書士とは関係のないことをやっているらしく、自分の本業が何なのかわからなくなることも多いと言っていました。行政書士の仕事を頼まれて、そう言えば自分は行政書士だった、と感じたこともあると言っていたほどです。

まとめ

さて、業務特化型はともかくとして、地域密着型も無償ではあるものの事実上の兼業だと私は思っています。このような働き方を見ていると、やはり行政書士の特徴でもある専門領域がないことが現れているのかな、という印象を私は受けました。この専門領域のなさが、行政書士の働き方の自由度の高さ(積極的な兼業が多い)を生むと同時に、働きにくさ(消極的な兼業に陥ってしまう)の理由なのかなと思ったりもしています。

私も今回は失敗したのですが、これから司法書士を取ったら行政書士もうまく使っていきたいと考えています。

行政書士開業へのよくある疑問

私の書きたかったことはだいたい書けたので、せっかくですので、行政書士開業についてよくある疑問を私の経験も交えながら答えてみたいと思います。

開業費用はいくら必要ですか

よく言われる目安は100万円です。しかし、事務所を借りるか自宅を使うかで大きく変わってくるでしょう。事務所を借りるならば、家賃、敷金、礼金などで20〜30万くらいはかかってしまうのではないでしょうか。

また、事務所を借りる借りないに関係なく、机や椅子、書棚などを新しく買うのであればそのお金も必要ですし、パソコンや複合機、電話機、FAXなど、揃えないといけないものはたくさんあります。

ちなみに私はレンタルオフィスを借りて開業しました。私が借りたところは、初期費用なしで家賃だけで使用でき、部屋には机や椅子が最初から設置してあって、複合機は共用のものを利用することができました。パソコンは前から使っていた自分のものをそのまま使うことにして、電話は個人のスマホをそのまま使い、FAXは電子版を使うなどした結果、初期費用は登録費の30万円と書籍代(これがけっこうしました、法律の専門書は高いですね)くらいだったと思います。

工夫次第で初期費用はかなり変わってくるかなと思います。

レンタルオフィスで開業できるのですか

私はできました。レンタルオフィスで開業されたい場合は行政書士会に一度問い合わせたほうがいいかと思います。

一応、注意点としていくつか指摘しておきたいと思います。

まず、きちんとした区切り、独立性が必要です。パーティションでもいいらしいので、しっかりとした部屋である必要はないのでしょうけども、ここで行政書士業務をやります、ということが客観的にわかるようにしておかなければなりません。なので、コワーキングスペースのような、机だけがある広い共用スペースでの開業は無理です。

それから、レンタルオフィス事業者と建物所有者が異なる場合は、その関係性を示す書類が必要になったような気がします。私の場合はレンタルオフィス事業者と建物所有者が同じだったので、このあたりスムーズだったのですが、違う場合はけっこう面倒です。

あと、レンタルオフィスだと賃貸借契約ではなく、会員契約みたいな感じのところもあると思います。私も会員契約だったのですけど、一応これでも大丈夫らしいです。行政書士の登録の際に、契約の種別を書かないといけないのですが、会員契約でもお金を払っているからとかで、賃貸借契約と同視するみたいな扱いを受けたと思います。ただ、このあたり、ケースバイケースなところもあるかもしれませんので、行政書士会に問い合わせるのが確実でしょう。

AIについて行政書士の反応はどんな感じですか

これから開業する人にとってはAIの影響はなかなか気になるところなのかなと思います。

私の周囲ではそんなに危機感を持っているような感じはありませんでした。chatGPTを使ってみよう、みたいなセミナーがあったりなど、会としても関心はあるのでしょうけど、焦りみたいなのは感じなかったです。

ITに詳しいベテランの行政書士の先生は、減る仕事もあるだろうけど、AIをどう活用していくのかを考えたほうがいいだろうとのことでした。

ちなみに、本文中に書いた地域密着型の働き方についてですが、これはAIの文脈でも語られることがありました。つまり、地域における濃い人間関係はAIには省略できない、ということらしいです。

政治連盟には加入したほうがいいですか

どっちでもいいと思います。加入しなくても怒られたりとか、嫌がらせされたりとかはまったくないので、お金がもったいないなら加入しなくてもいいでしょう。

ちなみに私は加入していたのですが、人脈が広がったり、講演会に参加できたりなど、メリットはあったなと感じました。

ひよこ狩りってあるんですか

私は経験しなかったです。ただ、ひよこ狩りとは違いますけど、開業すると行政書士会のホームページに会員情報が掲載されるので、そこに載せている電話番号に営業の電話(ホームページ作りませんか?とか複合機導入しませんか?とか)がめっちゃかかってきて、開業時の洗礼を受けることになります。

他士業と仲が悪いって本当ですか

ダブルライセンスの人が珍しくないので、そんなに仲が悪い印象は受けなかったですね。でも他士業の愚痴を言っている先生はたしかにいました。個人レベルではそういう小さいのはちょこちょこあっても、まあ別にそんなもんかな、と私は思います。行政書士会としてとなると他の士業の会とは交流は盛んだと思います。会として他士業を批判するのはマズイというものあるでしょうけど、仲が悪いということはないかなぁ、という印象ですね。

ところで、業際問題は実際にちょこちょこ問題になるのですが、個人レベルで考えると、しっかりと稼いでいる先生は他士業を尊重していると思います。たとえば、弁護士だったら行政書士の仕事もできますけど、役所での手続きは行政書士に任せていらっしゃいます。まあ、手続きを自分でやっている暇がないということもあるでしょうけど、プロにちゃんと任せるということなのだと思います。

特定行政書士は取ったほうがいいですか

好きにすればいいのではないかなと思います。私の場合、廃業するのが目に見えていたこともあって取得しなかったのですが、仮に廃業しなかったとしても、うーん、どうでしょうか、悩ましいところですね。

というのは、特定行政書士を取っても仕事がほぼないからです。特定行政書士を取ったけど仕事は一回もしたことがない、という人は決して珍しくないですし、たぶん、その方が大多数でしょう。行政書士会のオフシャルなものだったか覚えていないのですが、偉い人がコメントで、仕事はあまりないけどしっかりと行政法の知識を持っていることのアピールとして有効だ、みたいなことを言っていて、それ言っちゃっていいんだと感じたことを覚えています。それくらい仕事はないです。

特定行政書士の難易度については、ここ最近の行政書士試験の行政法とそんなに大きくは変わらないくらいだそうですが(それだったら、昔の簡単な試験をパスした人にとっては意味があるかもしれないけど、最近の試験をパスした人にとっては本当に意味がないことになってしまうような気がします)、研修などでそこそこお金もかかるそうです。このあたり、どう考えるか、でしょうかね。

行政書士はモテますか

既婚者は多いかなとは感じますが、単に年齢層が高いので既婚者の割合も多くなってるだけかもしれません。私の場合は行政書士になる前から付き合っていたので、なんとも言えないです。

ところで、あまり関係ありませんが、弁護士は頭がいいけどプライドが高いから、謙虚そうな行政書士がいいみたいな話を聞いたことがあります。それはそれでどうなんだ、と思わないでもないのですが、ただ、どんどん話がそれるのですけど、行政書士が他者からどう見られているのかという意味では、興味深い意見だと思います。やはり、士業以外の普通の人からすると、資格取得の難易度で士業を評価しているところがあると思うのです。

行政書士会としては「街の法律家」という言葉を使っていますが、たぶん、一般的な感覚では、法律関係の仕事をしている弁護士ではない何か、くらいの素朴なものだと思います。そして、そういうよくわからないものだからこそ、資格取得の難易度という客観的指標が注目されがちなのかと思うのです。こういうイメージに対してどう対応していくのかは行政書士の一つの課題なのかもしれません。